
耳で観る展覧会へようこそ。フェルメール《デルフトの眺望》は、都市そのものより都市に降りる光のふるまいを主題にした一枚です。導入ではサイズ・媒体・主調を簡潔に、つづいて水面→岸辺→城壁の明るい帯→雲の切れ目→塔へと視線を誘導。細部では、壁面に重ねられた黄土や灰の薄い層がつくる石の肌(質感)、雲の層/建物の帯の交互配置と塔の垂直が刻む拍(リズム)、雲間光が部分的に落ちることで空間が明暗の序列として成立する仕掛け(光)を言語化します。朝、あるいは雨上がり直後の一瞬——水面は“ぼんやりした鏡”として、光を少し遅れて返す。街は動き出し、しかし半分はまだ影の中。静けさの密度で都市を描くフェルメールの狙いを、複数解釈(気象の瞬間/都市の聖性/視覚の実験)とともに提示し、であなた自身の“最初の温度”を思い出す時間を設けます。
出典:ヤン・フェルメール《デルフトの眺望》1660–1661頃/油彩・カンヴァス/約96.5×115.7cm/モーリッツハイス美術館(ハーグ)。