
耳で観る展覧会へようこそ。《アポロとダフネ》は、変身の“最中”を石に固定した一作です。アポロは前へ、ダフネは後ろへ——二つの身体が螺旋(フィギュラ・セルペンティナータ)で結ばれ、指は葉へ、腕は樹皮へ、足先は根へとほどけていく。触れる寸前の手が腹の上で止まり、勝利の神は勝利そのものを取り逃がす。磨かれた皮膚は柔らかく光を返し、樹皮と葉の浅い彫りは細かな影を集め、同じ白が別々の温度を帯びる。ここで私たちは物語を観るのではなく、速度と距離を体感する——“まだ人間/もう樹木”のあわいに立ち会い、呼吸でその移行のテンポを測るのです。あなたの指先が葉に変わる速度を想像してください。
出典:ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ《アポロとダフネ》1622–1625/大理石/約243cm/ボルゲーゼ美術館(ローマ)