
前編では、オーロラに魅せられたヒロインと、彼女を想う先輩研究者の静かな交流が描かれました。後編では、物語が大きく動きます。
研究に打ち込みすぎて、自分の体を顧みない彼女。そんな彼女がある日、倒れてしまう…。
「オーロラ姫」を救ったのは、科学でもデータでもなく、たった一つの“想い”でした。
この物語は、科学と愛、そして眠りが交差する不思議な縁の物語。
果たして、彼女は「本当に安らげる場所」を見つけることができるのでしょうか?
【登場人物のペルソナ】
・女性(26歳)=大学院生で天文学を専攻。太陽風と地球の磁場の相互作用によって生じるオーロラについての研究に没頭している。最近、研究のプレッシャーと不規則な観測スケジュールにより、睡眠障害に悩まされている。オーロラの研究にのめり込みすぎているため、周りからは尊敬と揶揄をこめて「オーロラ姫」と呼ばれている(CV:桑木栄美里)
・男性(28歳)=女性と同じ大学院で天文学を研究している先輩。博士号終了後も国立天文台からのオファーを期待してポスドク(博士研究員)としてキャリアを積んでいる。「オーロラ姫」のことを慕っているが、なかなか言い出せないでいる(CV:日比野正裕)
<シーン1/先端科学研究所>
(SE〜ラボの環境音)
女性: 「スーパーカミオカンデからのオファー!?私が?」
男性: 彼女が通常より1オクターブ高い音階で驚く。
まあ、無理もない。
大学が運営する先端科学研究所で天文学を研究して、
去年の年末に、オーロラの出現を予測したんだから。
オーロラ姫の面目躍如だ。
それにしても、スーパーカミオカンデとはね。
東京大学宇宙線研究所が運用する世界最大の宇宙素粒子観測装置。
ニュートリノという素粒子を観測する施設からのオファーか。
期待の高さがわかるってもんだな。
女性: 「去年のオーロラ出現以来、
毎日毎日観測室とデータ解析室の往復を繰り返してるのよ。
睡眠障害だった1年前より、睡眠不足だわ」
男性: そうだった。
オーロラ姫はずうっと睡眠障害で悩んでいたんだ。
彼女の言葉を聞いた僕は、いてもたってもいられなくて
いろんな文献を調べたんだっけ。
あ、いや。
彼女のことが好きだとか、そういう直接的な意味じゃなくて。
なんとなく・・・
あれ?やっぱり、好きなのかな・・・
まいいや。
それで結局、治療もさることながら
ベッドや寝具も重要、と厚労省のガイドブックにあったから。
足を向けたのが、インテリアショップ。
そこで真っ先に目についたのが、電動リクライニングベッドだった。
高機能なツーモーターでありながらリーズナブル。
これなら研究員の僕でも手が出るかな・・
なんて思ってたらそのネーミングを見て驚いた。
電動リクライニングベッド”オーロラ”。
まるで、僕の心を突き動かすように
目が離せなくなった。
そのとき、同じベッドを見つめていたのが、なんとオーロラ姫。
偶然はドラマを生む。
なんてことはありえないんだな。
そのあと、少しだけ彼女と話し、お茶を飲んで別れた。
彼女と2人っきりの空間で話をしたのは、
あとにも先にもこの日だけ。
僕の思いは、オーロラの光のように、儚く消えていった。
<シーン2/先端科学研究所(実験室)>
(SE〜ラボの環境音)
女性: 「あら?今日は先輩と2人だけ?」
男性: え?
あ、そうか。
今日は休日だったっけ。
最近はみんな、休日は休んでるからなあ。
当たり前か。
待てよ。
オーロラ姫は・・・彼女は・・
全然休んでないんじゃないか。
嫌な予感。
不安が心をよぎる。
女性: 「お腹すかない?
なんだか血糖値が下がってきちゃったみたい」
男性: 「ああ、もうこんな時間じゃないか。
夢中になって観測してると、時間も忘れちゃうんだな」
女性: 「そうよぉ。
相対性理論でいうタイムマシンの原理ね」
男性: なんか違うような気もするけど。
ああ、体の疲れがピークだ。
力を抜くと瞼が閉じていく。
そのとき・・・
(SE〜人が倒れる音とガラスの割れる音)
男性: 「オーロラ姫!?」
大きな音に目を見開くと・・
高性能天体望遠鏡が床に倒れ、
その上にオーロラ姫が横たわっていた。
顔色は失せ、急激な発汗と震え。
これは・・・低血糖症だ。
やがて、痙攣が彼女を襲う。
そのまま意識を失った。
少しためらいながら、僕は彼女を抱き起こす。
そのまま仮眠室のベッドへ。
だが、ほどなく、脈が早くなり、呼吸が荒くなる。
そして・・呼吸音は聞こえなくなった。
まずい。
こんなときは・・・
わかっている。大学時代、ライフセーバーをやっていた。
戸惑っているときではない。
オーロラ姫の首を軽く後ろに傾けて、下あごを持ち上げる。
気道を確保してから、唇を合わせて、息を吹き込んだ。
その間に、胸が落ちるのを確認する。
人工呼吸を2回するごとに、呼吸と脈拍をチェック。
僕はオーロラ姫の呼吸が回復するまで人工呼吸を続けた。
<シーン3/病院のベッド>
(SE〜心電図の音)
女性: 「起きて・・・ねえ、起きて」
男性: え?
ここは・・・病院?
女性: 「あなたまで倒れないでよ」
男性: 思い出した。
僕は、オーロラ姫に人工呼吸で救命措置をしたあと、
救急車を呼んで病院に運んでもらったんだ。
そうか、付き添っているうちに、僕も眠っちゃったんだな。
女性: 「ERドクターに言われたわ。
呼吸が戻ったのは、適切な救命措置のおかげだって」
男性: 救命措置・・・
女性: 「先輩が迅速に人工呼吸と心配蘇生をしてくれたから
後遺症もなくこうして生きていられるのね」
男性: 「それは・・・たまたま僕が以前ライフセーバーだったから」
女性: 「ううん。
オーロラ姫を死の眠りから目覚めさせてくれたのは
王子様のキスでしょ」
男性: 「え・・・」
■BGM〜「インテリアドリーム」
女性: 「ありがとう」
男性: 「そんな・・お礼なんて」
女性: 「今度は、起きているときにしてね」
男性: 「ええっ?」
男性: そう言ったあと、彼女はいたずらっぽく笑う。
女性: 「私、もう少し自分の体を大切にするわ」
男性: 「うん。それがいい」
女性: 「ああ、病院の硬いベッドじゃなくて、
おうちのリクライニングベッドで眠りたい」
男性: 「ああ、あれ」
女性: 「そう・・」
2人で: 「オーロラ!」
女性: 「先輩も、ベッド変えたら?」
男性: 「うん、考えてたんだ」
女性: 「先輩の給料なら、もっと上位機種にも手が届くでしょ」
男性: 「いやいや。僕も自分の身の丈に合わせてオーロラさ」
女性: 「へえ〜、そうなんだ」
男性: 「僕は所詮ポスドクだし、研究員の給料なんて君もよく知ってるだろ」
女性: 「じゃあ、2人合算すれば、アップグレードできるかしら」
男性: 「えっ?」
言ったあと、オーロラ姫は下を向いてはにかんでいる。
ひょっとして、僕は王子様になれるのかな。
顔色が戻ってきた彼女の頬は薄紅色に輝いていた。