
アルルでの錯乱と入退院を繰り返したゴッホは、自由に制作できる環境を求めてサン=レミの療養所へ移り、ここで「星月夜」や「糸杉」など独自の筆致が最高潮に達した作品を生み出していきます。精神が揺らぐ中でも、短い筆致と渦を巻くようなうねりは彼にとって“リアル”の追求であり、周囲には狂気と映りながらも、新たな評価の芽を生んでいきました。一方で、弟テオへの深い依存と経済的な不安は、彼の心をさらに揺らし、作品の中に光と影を同時に刻み込んでいきます。サン=レミ時代のゴッホは、絶望と希望のあいだで揺れながら、名画の裏にある“最後の一年”を生き抜こうとしていました。