1.論文のタイトル:Sepsis-induced cardiogenic shock: controversies and evidence gaps in diagnosis and management2.Citation:Journal of Intensive Care. 2025; 13: 1.
論文内容の要約
概要と定義敗血症は通常、血管拡張と心拍出量の増加を特徴としますが、心機能不全を合併して心原性ショックを呈することがあり、これを「敗血症誘発性心原性ショック(SICS)」と定義します。SICSは、敗血症に伴う新規の心筋機能不全、または既存の心機能障害の増悪によって引き起こされる低灌流状態を指します。
疫学とリスク要因敗血症性ショック患者におけるSICSの発症率は約3%から5%と推定されています。SICSを合併した患者は、敗血症性ショックのみの患者と比較して死亡率が有意に高いことが報告されています。最大の予測因子は心機能障害の既往であり、高齢化社会に伴う心血管疾患の増加により、今後さらに重要性が高まると予想されます。
診断とモニタリングSICSの決定的な診断基準は確立されていませんが、一般的には、十分な輸液後も続く低灌流、低い心係数(2.2 L/min/m²以下)、および高い充満圧に基づいて診断されます。
治療と管理SICSの管理には、薬物療法と補助循環の二つの側面があります。
結論SICSは非常に予後が悪い病態であり、早期の心エコーによるスクリーニング、PACによる高度なモニタリング、そして適切な症例選択に基づいた補助循環装置の使用が、患者の転帰を改善するために重要です。
1.論文のタイトル:Comparison of the lethal triad and the lethal diamond in severe trauma patients: a multicenter cohort2.Citation:World Journal of Emergency Surgery. 2025; 20: 2.
論文内容の要約
背景と目的重症外傷患者の管理において、酸血症、凝固障害、低体温からなる「死の三徴(lethal triad)」の予防は、失血死を防ぐための重要な指針とされてきました。近年、これに「低カルシウム血症」を加えた「死のダイヤモンド(lethal diamond)」という概念が提唱されていますが、その有効性に関する証拠は不十分でした。本研究は、輸血を必要とする重症外傷患者において、死の三徴と死のダイヤモンドのどちらが24時間死亡率とより強く関連しているかを比較することを目的としました。
研究方法フランスの多施設データベース(TraumaBase®)から、2011年から2023年の間に登録された2141名の重症外傷患者を対象に、レトロスペクティブ(遡及的)な解析を行いました。対象は、入院後6時間以内に1単位以上の赤血球輸血を受けた成人患者です。低カルシウム血症は、イオン化カルシウム(iCa)濃度が1.1 mmol/L未満であることと定義されました。
結果解析対象となった患者の24時間死亡率は16.1%でした。統計的な解析(ROC曲線分析)の結果、24時間死亡率との関連性において、死のダイヤモンド(AUC 0.71)と死の三徴(AUC 0.72)の間に有意な差は認められませんでした。また、多変量解析において、酸血症、凝固障害、低体温の各要素は死亡率と独立して関連していましたが、低カルシウム血症については、他の要素で調整した後は死亡率との独立した関連性は認められませんでした。今回の対象患者の64%が低カルシウム血症を呈しており、その発生頻度は非常に高いことが確認されました。
結論重症外傷患者における24時間以内の早期死亡を予測する上で、従来の死の三徴に低カルシウム血症を加えて「死のダイヤモンド」としても、予測精度に有意な向上は見られませんでした。低カルシウム血症は蘇生過程で監視および対処すべき重要な因子の一つではありますが、従来の三つの要素(酸血症、凝固障害、低体温)と同列の独立した予後予測因子として扱うには、さらなる検証が必要であると考えられます。外傷後の病態は複雑であり、これら特定の指標のみに依存せず、包括的な管理を継続することが重要です。
1.論文のタイトル:Fat embolism syndrome after trauma: What you need to know2.Citation:J Trauma Acute Care Surg. 2024;97: 505–513.
論文内容の要約
概要と定義脂肪塞栓症候群(FES)は、主に長管骨の骨折や整形外科手術の後に、脂肪滴が血流中に循環して主要な臓器に到達することで引き起こされる全身性の臨床状態です。脂肪塞栓(FE)自体は骨折患者の約90%に認められる一般的な現象ですが、その多くは無症状であり、臨床的に意味のある症状を呈するFESとは区別されます。FESは重症化すると、深刻な呼吸不全、神経学的損傷、さらには死に至る可能性があります。
疫学とリスク要因FESの発症率は研究によって異なりますが、前方視的研究では11%から13%程度と報告されています。特に10歳から39歳の若年男性に多く、大腿骨骨折、多発骨折、高エネルギー外傷、閉鎖性骨折が主なリスク因子となります。また、受傷後の骨折固定の遅延や、手術中の髄内リーミング(穴開け)操作も発症リスクを高めます。
臨床症状FESの典型的な症状は、呼吸困難、神経障害、点状出血の3つです。
病態生理FESのメカニズムには「機械的理論」と「生化学的理論」の2つがあります。機械的理論では、損傷した骨髄の脂肪滴が静脈に入り込み、肺血管を閉塞させ、さらに卵円孔開存などを介して全身循環に回ることで臓器障害を引き起こすとされます。生化学的理論では、血中のリパーゼが脂肪を遊離脂肪酸に分解し、それが直接血管内皮を損傷して炎症反応や浮腫を誘発すると考えられています。
診断FESを決定づける単一の検査は存在しません。診断は主に臨床基準(Gurd基準、Lindeque基準、Schonfeld基準など)に基づいて行われます。画像診断では、脳の病変を特定するために磁気共鳴画像(MRI)の拡散強調画像(DWI)が最も敏感であり、小さな高信号スポットが散在する「スターフィールド・パターン」が特徴的です。
管理と予防FESに対する根治的な治療法はなく、予防と支持療法が中心となります。
予後平均死亡率は約10%とされています。呼吸不全は通常3〜7日以内に解決し、神経学的な欠損も多くの場合において良好な回復を示します。
1.論文のタイトルLead Poisoning
2.CitationN Engl J Med 2024;391:1621-31.
要約
鉛中毒は古くから知られる疾患ですが、20世紀にガソリン、塗料、水道管、はんだなどの産業利用が急増したことで、人類の曝露量は劇的に増加しました。1970年代以降、有鉛ガソリンの段階的廃止などの規制により、米国などでは血中鉛濃度が95%以上低下しましたが、現代人の体内鉛蓄積量は、産業革命以前の人類と比較していまだに10倍から100倍高い水準にあります。
鉛は主に吸入や経口摂取を通じて体内に取り込まれ、カルシウムや鉄などの必須ミネラルを模倣して細胞内に侵入します。成人の場合、吸収された鉛の約95%が骨に貯蔵され、更年期や甲状腺機能亢進症などで骨代謝が変化する際に血液中に再放出されます。近年の研究では、かつて安全と考えられていた極めて低い血中濃度であっても、深刻な健康被害を引き起こすことが判明しており、現在では安全な曝露レベルの閾値は存在しないと認識されています。
子供においては、低レベルの鉛曝露であっても早産のリスクを高め、IQの低下、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、読解障害、さらには成人後の反社会的行動や犯罪率の上昇と関連していることが示されています。特にIQへの影響は、血中濃度が極めて低い段階で最も急激な低下が見られます。成人においては、鉛は酸化ストレスの増加や血管収縮を引き起こし、高血圧、動脈硬化、冠動脈疾患などの心血管疾患の主要なリスク要因となります。2019年には、世界中で550万人の心血管疾患による死亡が鉛曝露に起因すると推定されており、その経済的損失は世界全体の国内総生産(GDP)の7%に相当する6兆ドルに達しています。
治療としてキレート療法が用いられることもありますが、その効果については研究結果が一貫しておらず、特に子供の認知機能改善には寄与しないという報告もあります。そのため、鉛製の水道管の交換、航空燃料や弾薬における鉛使用の禁止、古い住宅の鉛塗料の除去、汚染された土壌の対策など、環境中の鉛供給源を根本から排除する公衆衛生上の予防戦略が不可欠です。
1.論文のタイトルElectrical impedance tomography monitoring in adult ICU patients: state-of-the-art, recommendations for standardized acquisition, processing, and clinical use, and future directions
2.CitationCritical Care (2024) 28:377
論文内容の要約
電気インピーダンス・トモグラフィ(EIT)は、肺の換気と血流(灌流)の地域的な分布をリアルタイムかつ連続的にモニタリングできる非侵襲的なベッドサイド技術です。本論文は、成人の集中治療室(ICU)患者におけるEITの適切な利用を促進するため、データの取得、処理、臨床応用、および将来の展望について、国際的な専門家会議による推奨事項をまとめたものです。
主な内容は以下の通りです。
本ガイドラインは、技術的な障壁や標準化の欠如を解消し、EITを臨床現場における個別化医療の不可欠なツールとして定着させることを目指しています。
1.論文のタイトルEchocardiographic and clinical patterns in patients with acute carbon monoxide poisoning without cardiovascular and other chronic diseases
2.CitationClinical Toxicology, 2025, DOI: 10.1080/15563650.2025.2456689
論文内容の要約
急性一酸化炭素(CO)中毒は、心筋障害を含む循環器系への重大な影響を及ぼす可能性があります。本研究は、心血管疾患やその他の慢性疾患(高血圧、糖尿病、貧血など)を持たない、それまで健康であった患者において、急性CO中毒が左室機能にどのような影響を与えるかを心エコー図検査を用いて評価することを目的としました。
ポーランドの単一センターで実施されたこの観察研究では、112名の連続したCO中毒患者のうち、除外基準に該当しない46名(中央値28歳)を対象としました。中等症から重症の中毒患者において、高感度トロポニンT値(14.0 ng/l超)により心筋障害が確認されたのは17名(36.9%)でした。
分析の結果、心筋障害を伴う群は、伴わない群と比較して、平均心拍数(108.9回/分 vs 87.6回/分)および血漿乳酸濃度(1.95 mmol/l vs 1.2 mmol/l)が有意に高いことが判明しました。症状としては意識消失やめまいが多く見られましたが、心筋障害がある患者の中に胸痛を訴える者はいませんでした。また、心筋障害あり群の64.7%において心電図上のST低下が認められました。
心エコー図検査による評価では、左室駆出率(LVEF)については両群間で有意な差は認められませんでした(59.8% vs 62.9%)。しかし、より感度の高い心筋収縮力の指標である左室グローバル・ロンジチュード・ストレイン(GLS)については、心筋障害あり群(-20.1%)が、なし群(-22.1%)に比べて有意に低下していることが示されました。
結論として、基礎疾患のない健康な患者が急性CO中毒に罹患した場合、心筋障害が発生していても従来の駆出率などの指標では異常が捉えにくい一方、GLS分析を用いることで微細な心機能の変化を検出できることが示唆されました。ただし、本研究は小規模なコホートに基づいているため、さらなる調査が必要であると述べられています。
1.論文のタイトルDevice associated complications in the intensive care unit
2.CitationBMJ 2024; 386: e077318
論文内容の要約
集中治療室(ICU)で日常的に使用される血管カテーテル、気道デバイス、体外式膜型人工肺(ECMO)などの侵襲的デバイスは、患者管理に不可欠である一方で、多くの合併症の原因となります。これらの合併症は患者の死亡率向上、入院期間の延長、医療コストの増大に直結するため、適切なリスク軽減戦略と発生時の管理が重要です。
血管カテーテル(中心静脈カテーテルや動脈カテーテル)における主な合併症には、挿入時の血管損傷、血腫、気胸、空気塞栓症のほか、挿入後の血栓症や感染症があります。これらのリスクを低減するためには、リアルタイムの超音波ガイド下での挿入、チェックリストの活用、および不要になった際の速やかな抜去が推奨されます。また、末梢血管からの昇圧剤投与の検討など、不必要なカテーテル挿入自体を避ける判断も求められます。
気道デバイス(気管挿管、気管切開)では、挿入時に心血管系の不安定化や深刻な低酸素血症、誤挿管などが発生するリスクがあります。ビデオ喉頭鏡の使用や熟練者による施行が、初回成功率を高め合併症を減らす有効な手段です。長期的には、カフ圧の過上昇などによる喉頭・気管の狭窄、気管軟化症、瘻孔形成、さらには発声困難といった後遺症が課題となります。
ECMOは、使用の急増に伴い合併症の報告も多く、出血や血栓症といった血液学的問題、脳梗塞や脳出血などの神経学的障害、装置の故障、感染症、下肢虚血など多岐にわたります。特に回路内の血栓形成やカニューレの不適切な配置は命に関わるため、高度な専門知識と事前の準備が不可欠です。
今後の課題として、身体拘束による損傷や精神的苦痛、医療従事者とのコミュニケーション不足、退院後も続く長期的な痛みや認知機能障害など、患者自身の視点に立ったアウトカムの把握と改善が強調されています。非侵襲的なモニタリング技術の開発や、VR・ARを用いたトレーニングも、これらの合併症を減らすための新たなアプローチとして期待されています。
1.論文のタイトルThe 2023 WSES guidelines on the management of trauma in elderly and frail patients
2.CitationWorld J Emerg Surg. 2024; 19:18
論文内容の要約
世界緊急外科学会(WSES)による、高齢およびフレイル(虚弱)な外傷患者の管理に関する2023年版ガイドラインです。高齢者は生理的予備能が低く、多くの持病や内服薬を抱えているため、若年層と同じ管理では不十分であり、多職種連携による個別化されたアプローチが求められます。
主要な推奨事項は以下の通りです。
高齢外傷患者の予後改善には、これら専門的な知見に基づいた迅速な初期対応と、フレイル評価を含めた継続的な多職種管理が不可欠であると結論づけています。
1.論文のタイトルCardiovascular effects of lactate in healthy adults
2.CitationCritical Care (2025) 29:30
論文内容の要約
本研究は、健康な成人男性8名を対象に、0.5モルの乳酸ナトリウム(LAC)輸液が心血管系に及ぼす影響とそのメカニズムを、ナトリウム濃度を合わせた高張食塩水(SAL)と比較したランダム化対照クロスオーバー試験です。被験者は4時間にわたって各溶液の静脈内投与を受け、心エコー検査および血液検査によって血行動態の変化が評価されました。
研究の結果、LACの輸液はSALと比較して、心拍出量を1.0 L/min増加させることが確認されました。この増加は主に1回拍出量の有意な増加(11 mL)によるものであり、心拍数には有意な変化は認められませんでした。また、左室駆出率(LVEF)が5ポイント向上し、グローバル・ロンジチュード・ストレイン(GLS)も改善するなど、収縮性の指標において良好な結果が得られました。
血行動態のメカニズムに関する分析では、SAL群で前負荷指標の上昇が見られたのに対し、LAC群では前負荷が安定した状態を維持していました。一方で、LAC群では全身血管抵抗(SVR)や有効動脈エラストランス(Ea)といった後負荷指標が有意に低下しており、平均動脈圧を維持しながらも心臓への負担が軽減されていることが示されました。
結論として、健康な被験者において乳酸輸液は、前負荷を増大させることなく、収縮力の向上と後負荷の軽減を通じて心機能を直接的に強化することが示唆されました。この知見に基づき、乳酸輸液は単なる容量補充液としてだけでなく、特に心機能障害を持つ患者の蘇生において、血行動態を最適化する有益な選択肢となる可能性が示されています。
1.論文のタイトルA Critical Issue in the Management of Adult Patients Presenting to the Emergency Department With Acute Carbon Monoxide Poisoning
2.CitationAnn Emerg Med. 2025; 85: e45–e59
論文内容の要約
米国救急医学会(ACEP)による、救急外来を受診した急性一酸化炭素(CO)中毒の成人患者に対する臨床方針の報告です。本資料は、高気圧酸素(HBO2)療法が常圧酸素(NBO)療法と比較して、長期的な神経認知機能のアウトカム(遅発性神経学的後遺症:DNS)を改善するかどうかという点について、2017年の指針以降の最新の文献を網羅的に調査し、エビデンスに基づいた推奨を提示しています。
一酸化炭素はヘモグロビンと強力に結合して組織の低酸素状態を引き起こすほか、遊離基の生成や脂質過酸化といった細胞レベルでの炎症・免疫損傷を誘発します。これにより、初期曝露から2日から40日後に、記憶障害、集中力の欠如、精神症状などの神経学的後遺症が現れることがあります。
研究チームは、以前の指針で検討された5つのランダム化比較試験に加え、新たに発表された大規模なレトロスペクティブ研究およびメタ解析を分析しました。日本のデータベースを用いた研究では、HBO2療法を受けた群において、退院時の精神状態や日常生活動作(ADL)の改善がわずかに認められました。一方で、複数のメタ解析の結果は一貫しておらず、死亡率や全般的な神経学的予後における明確な優位性は証明されていません。
結論として、強い科学的確実性を示すレベルAおよびBの推奨を策定するには至りませんでした。レベルC(専門家の合意または限定的な証拠に基づく推奨)として、症状のあるCO中毒患者のうち、症状の重症度や治療施設までの距離、移動時間を考慮した上で、特定の患者においてHBO2療法の恩恵を受けられる可能性があるとしています。特に記憶障害のリスク低減において、HBO2が寄与する可能性が示唆されています。今後は、治療開始までの時間や投与プロトコルを標準化したさらなる研究が求められています。
1.論文のタイトルTreatment of Acute Circulatory Failure Based on Carbon Dioxide-Oxygen (CO2-O2) Derived Indices: The Lactel Randomized Multicenter Study
2.CitationCHEST. 2025; 167(4): 1068-1078.
論文内容の要約
集中治療室(ICU)における急性循環不全の治療において、二酸化炭素(CO2)と酸素(O2)の代謝に基づいた指標(CO2-O2由来指標)を用いた蘇生戦略の有効性を検証したランダム化比較試験の結果を報告する論文です。研究には、高乳酸血症を伴う急性循環不全の成人患者179名が参加し、標準治療群(90名)と、中心静脈血および動脈血ガス分析から算出される指標(P(v-a)CO2 gapやP(v-a)CO2/Ca-vO2比)を用いたアルゴリズム治療群(89名)に無作為に割り当てられました。
主要評価項目である「2時間以内での乳酸クリアランス10%以上の達成」については、標準治療群が50%であったのに対し、介入群は43.8%であり、統計的な有意差は認められませんでした。また、副次評価項目である臓器不全(SOFAスコア)の推移、ICUおよび病院の滞在期間、28日死亡率についても、両群間で有意な差は確認されませんでした。
治療内容の分析では、介入群において標準治療群よりも強心薬(ドブタミン)の使用頻度が高く、心係数がより早期に上昇したものの、それが乳酸値の改善や臨床的アウトカムの向上には結びつきませんでした。研究チームは、急性循環不全の初期段階における蘇生において、CO2-O2由来指標に基づいたアルゴリズムを用いても、標準治療と比較して組織の低灌流や予後を改善する効果は得られないと結論づけています。今後は、このアプローチから利益を得られる可能性のある特定の患者サブグループの特定が必要であるとしています。
1.論文のタイトルThe European guideline on management of major bleeding and coagulopathy following trauma: sixth edition
2.CitationCritical Care (2023) 27:80
論文内容の要約
重傷外傷に伴う大出血および外傷性凝固障害は、世界的に主要な死亡原因の一つであり、適切な診断と迅速な治療が不可欠です。本ガイドラインの第6版は、外傷患者の診断および初期治療フェーズにおける39の推奨事項を、時系列に沿って提示しています。
初期蘇生においては、負傷から止血介入までの時間を最小限に抑えることが推奨されます。適切な施設への直接搬送を行い、四肢の出血には局所圧迫や止血帯(ターニケット)を使用します。気道管理では、意識障害(GCS 8以下)や低酸素血症がある場合に遅滞なく気管挿管を行い、正常換気を維持します。
診断とモニタリングでは、ショック指数(SI)や脈圧(PP)を用いてショックの程度を評価します。出血源の特定には、全身の造影CT検査や、外傷フォーカス超音波検査(FAST)を含むポイント・オブ・ケア超音波(POCUS)を早期に実施します。また、ヘモグロビン(Hb)値、乳酸値、凝固能の継続的なモニタリングが必要です。
循環管理では、止血が完了するまでは「許容的低血圧」の概念に基づき、収縮期血圧80〜90mmHgを目標とする制限的な輸液戦略をとります。ただし、重症頭部外傷患者の場合は脳灌流を維持するため、より高い血圧目標を設定します。輸液には等張性電解質液を用い、膠質液の使用は制限します。
凝固管理の柱となるのは、受傷後3時間以内のトラネキサム酸投与です。初期の凝固蘇生では、フィブリノゲン製剤や新鮮凍結血漿(FFP)を用いた戦略がとられます。その後の治療は、粘弾性検査(VEM)や標準的な臨床検査値に基づく、個別の目標指向型戦略へ移行します。フィブリノゲン値が1.5g/L以下の場合の補充や、正常なカルシウム濃度の維持も重要です。
抗血栓薬を服用している患者への対応として、ビタミンK拮抗薬にはプロトロンビン複合体濃縮製剤(PCC)とビタミンK、第Xa因子阻害薬にはアンデキサネット アルファ(利用可能な場合)やPCC、ダビガトランにはイダルシズマブによる迅速な中和が推奨されています。
また、出血制御後の早期からの機械的・薬物的な血栓予防の開始や、地域レベルでのガイドラインの実装、および治療の質を評価するための安全管理システムの構築が、患者の生存率向上に寄与すると結論づけられています。
1.論文のタイトルFollow-up strategies for patients with splenic trauma managed non-operatively: the 2022 World Society of Emergency Surgery consensus document
2.CitationWorld Journal of Emergency Surgery (2022) 17:52
論文内容の要約
本論文は、腹部鈍的外傷で最も損傷頻度が高い臓器である脾臓の損傷に対し、**非手術的管理(NOM)**を選択した患者のフォローアップ戦略に関する世界緊急外科学会(WSES)のコンセンサス文書です。世界5大陸から集まった48名の国際的専門家が、デルファイ法を用いて11の臨床的問いと28の推奨事項を作成しました。
管理上の主要な指標は以下の通りです。
この文書は、根拠に基づく標準的な管理指針を提供し、入院期間の短縮や合併症の回避を目的としています。
1.論文のタイトルEffectiveness and tolerability of methylthioninium chloride (methylene blue) for the treatment of methemoglobinemia: twenty-four years of experience at a single poison center
2.CitationClinical Toxicology, 2025, DOI: 10.1080/15563650.2025.2470428
論文内容の要約
メトヘモグロビン血症の第一選択薬として広く使用されている塩化メチルチオニニウム(メチレンブルー)ですが、その有効性と安全性に関する大規模な臨床データは限られています。本研究は、ニューヨーク市毒物センターにおける2000年から2024年までの24年間の記録を遡及的に調査し、メチレンブルーを投与された185件の症例を分析しました。
主な原因物質は、揮発性亜硝酸塩(41%)、局所麻酔薬(15%)、およびダプソン(11%)でした。メチレンブルーの投与量は中央値で1 mg/kgであり、全体の98%の症例において臨床的な改善が認められました。大半の患者(89%)は単回の投与で改善しましたが、複数回の投与が行われた症例の多くはダプソンまたは揮発性亜硝酸塩の曝露に関連していました。特にダプソン曝露例では、その長い半減期と代謝特性により、29%の症例で追加投与が必要となりました。
副作用の報告は全体の4.9%(9件)に留まり、内容は悪心、嘔吐、注入部位の痛み、失神などでした。重大な副作用とされる溶血は1件のみ報告されています。グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症については、検査が行われた7名のうち2名で欠損が確認されましたが、そのうち1名はメチレンブルー投与後に臨床的な改善を示しました。死亡例は2名確認されましたが、いずれも亜硝酸ナトリウムの摂取により病院到着時にすでに心肺停止状態であった症例でした。
結論として、メチルチオニニウム(メチレンブルー)はメトヘモグロビン血症に対して極めて有効かつ忍容性が高い治療薬であり、ほとんどの症例において1〜2 mg/kgの単回投与で十分な効果が得られることが示されました。
1.論文のタイトルThe diagnosis and management of acute traumatic diaphragmatic injury: A Western Trauma Association clinical decisions algorithm
2.CitationJ Trauma Acute Care Surg. 2025; 98: 621–627
論文内容の要約
急性外傷性横隔膜損傷(TDI)は、呼吸の主動作筋である横隔膜に欠損が生じる病態で、放置すると腹部臓器が胸腔内へ脱出し、臓器の虚血、穿孔、閉塞といった深刻な合併症を引き起こす可能性があります。この損傷は、交通事故などの鈍的外傷、あるいは銃創や刺創などの貫通外傷によって発生しますが、初期診断が非常に難しいことで知られています。
診断においては、患者の血行動態が不安定な場合は直ちに外科的探索を行うべきであり、CT検査のために手術を遅らせてはなりません。手術中には、横隔膜を直接視認して損傷の有無を確認することが標準的な手順となります。血行動態が安定している患者に対しては、静脈造影を用いたCT検査が診断の柱となります。ただし、CTの感度は損傷の機序によって異なり、鈍的外傷では約80%と比較的高いのに対し、貫通外傷では約40%と低いため、注意が必要です。
治療と管理のアプローチは、損傷の機序と部位(左右)によって以下のように分類されます。
修復の際は、脱出した臓器を本来の部位に戻し、非吸収性縫合糸を用いて欠損部を閉鎖します。
現在、CTで見落とされるような微小な鈍的損傷の臨床的重要性や、超音波検査によるスクリーニングの有用性(現状では感度が不十分とされる)については、依然として議論が続いており、さらなる研究が必要とされています。早期の適切な診断と、機序に基づいた層別化管理が患者の予後改善に不可欠です。
1.論文のタイトルAssociation of Hypocalcemia and Mean Arterial Pressure With Patient Outcome in ICU
2.CitationCrit Care Med. 2025; DOI: 10.1097/CCM.0000000000006602
論文内容の要約
集中治療室(ICU)入室後の低カルシウム血症は、15%から88%の頻度で発生する一般的な代謝異常ですが、その死亡率への影響については研究によって見解が分かれています。本研究は、中国の病院のICUに入室した成人患者4,947名を対象に、入室後24時間以内のイオン化カルシウム(iCa)濃度と死亡率の関連性を調査しました。また、血圧(平均動脈圧:MAP)およびノルアドレナリンに対する血圧反応性が、iCaと死亡率の関係をどの程度仲介しているかを検証しました。
分析の結果、iCa濃度はICU死亡率と独立して関連していることが明らかになりました。iCa濃度が低いほど死亡率が高くなる傾向があり、iCaが0.1単位上昇するごとに死亡リスクは約8%低下することが示されました。
血圧との関係については、iCa濃度と時間加重平均血圧(TWA-MAP)の間に正の相関が認められ、特に重度の低カルシウム血症患者においてこの関連が顕著でした。媒介分析(mediation analysis)では、血圧および血圧反応性が、iCaと死亡率の関連をそれぞれ4.55%および2.6%の割合で仲介していることが示されました。
結論として、ICU入室初期のiCa濃度は患者の予後を予測する独立した因子であり、その影響の一部は血圧の維持や血圧反応性の変化を通じて現れている可能性が示唆されました。この知見は、ICUにおける血圧管理の際、iCa濃度の推移も考慮に入れる必要性を示唆しています。
1.論文のタイトルResilience, Survival, and Functional Independence in Older Adults Facing Critical Illness
2.CitationCHEST. 2024; 166(6): 1431-1441.
論文内容の要約
集中治療室(ICU)を退院した高齢患者は、身体、精神、または認知機能に新たな障害が生じたり、既存の障害が悪化したりする「集中治療後症候群(PICS)」を経験することが多くあります。本研究は、米国の高齢者を対象とした全国的な縦断調査データを用い、65歳以上の高齢患者3,409名における、ICU入室前の心理的な「レジリエンス」(逆境に適応し、回復または成長する能力)が、退院後の生存率や機能的自立にどのような影響を与えるかを分析しました。
分析の結果、ICU入室前のレジリエンスが最も高いグループは、最も低いグループと比較して、退院後の死亡リスクが19%低いことが明らかになりました。また、レジリエンスが高い患者は、退院から5年後の時点においても、日常生活動作(ADL)や手段的日常生活動作(IADL)における機能的自立を維持している確率が有意に高いことも示されました。
一方で、ICU滞在中に生じる急激な機能低下の度合いや、ICU入室前後の機能低下の進行速度(推移の傾斜)については、レジリエンスの高さによる有意な差は認められませんでした。このことは、レジリエンスが高いグループの良好な予後が、ICU滞在中の悪影響を緩和した結果というよりも、主に入室前の時点ですでに高い自立水準を維持していたことに起因している可能性を示唆しています。
レジリエンスは介入によって修正や向上が可能な特性であると考えられており、高齢のICU生存者の生存率や身体機能を改善するための新たな治療ターゲットとして注目されています。
1.論文のタイトルVascular Complications After Venoarterial Extracorporeal Membrane Oxygenation Support: A CT Study
2.CitationCrit Care Med. 2025.
論文内容の要約
重症の心原性ショックに対して用いられる経皮的静脈動脈体外式膜型人工肺(VA-ECMO)は、救命に寄与する一方で、カニューレ挿入に伴う血管合併症のリスクが伴います。本研究は、VA-ECMOを離脱した成人患者を対象に、系統的なコンピュータ断層撮影(CT)を用いて、離脱直後の血管合併症の頻度、リスク因子、および臨床管理への影響を調査した retrospective なコホート研究です。
調査対象となった109名の患者のうち、81%という極めて高い割合で何らかの血管合併症が認められました。最も頻度が高かったのは血栓症であり、カニューレ関連深部静脈血栓症(CaDVT)が58%、動脈血栓症が33%の患者で確認されました。CaDVTの発生部位としては下大静脈が最も多く、動脈血栓症は大腿動脈に多く認められました。また、血栓性以外の合併症も44%の患者で見られ、動脈剥離、血腫、仮性動脈瘤などが報告されています。
これらの合併症の発生と、ECMOの装着期間、抗凝固療法の強度(ヘパリン投与量や目標値)、あるいはECMOの回転数といった因子との間に、統計的に有意な関連は認められませんでした。つまり、標準的な管理を行っていても合併症を完全に防ぐことは困難であることが示唆されました。
血管合併症の有無そのものは院内死亡率に直接的な影響を与えていませんでしたが、離脱後のCT検査の結果は、全体の83%の患者において治療方針の変更(抗凝固療法の継続や追加の外科的・血管内介入の検討など)に寄与しました。
結論として、VA-ECMO使用後の血管合併症は非常に一般的であり、その多くは無症状です。CTは超音波検査よりも深部や中心静脈の病変を検出する感度が高く、早期の適切な診断と治療介入を可能にするため、VA-ECMO離脱後のルーチンなスクリーニング検査としてCTを検討すべきであると提案されています。
1.論文のタイトルSociety of Critical Care Medicine Guidelines on Adult Critical Care Ultrasonography: Focused Update 2024
2.CitationCritical Care Medicine, 2025, DOI: 10.1097/CCM.0000000000006530
論文内容の要約
本ガイドラインは、2016年に発行された重症患者における集中治療超音波検査(CCUS)の使用に関する指針のアップデート版です。36名の専門家パネルにより、敗血症性ショック、急性呼吸不全、体液管理、心原性ショック、心停止の5つの主要領域において、CCUSが患者のアウトカムに与える影響が評価されました。
敗血症性ショックの患者管理において、CCUSの使用は死亡率をわずかに低下させ、初期24時間の輸液量を削減する可能性があるため、その活用が推奨されています。急性呼吸不全や原因不明の呼吸困難を呈する患者に対しても、診断の迅速化や適切な治療開始までの時間短縮、さらに人工呼吸器の装着期間を短縮できるエビデンスに基づき、CCUSの使用が支持されています。
体液管理については、標準的なケアと比較してCCUSを用いた標的な管理を行うことが、死亡率の改善に寄与する可能性があると報告されました。また、心原性ショックの管理では、肺動脈カテーテルと比較して安全性が高く、同等の情報を得られることからCCUSの使用が提案されていますが、これらに関するエビデンスの質は依然として低い状況にあります。
一方で、心停止時におけるCCUSの使用については、蘇生中断(パルスチェック)の時間を延長させるリスクや、生存率の向上を裏付ける十分なデータが不足しているため、CCUSの使用を推奨するか、あるいは行わないかについては明確な結論に至っていません。ガイドライン全体を通じて、CCUSの効果を最大限に引き出すためには、機器の適切な整備に加え、実施者の十分なトレーニングと習熟度の標準化、および品質保証のプロセスが不可欠であることが強調されています。
1.論文のタイトルPenetrating cardiac injuries: What you need to know
2.CitationJ Trauma Acute Care Surg. 2025; 98: 523–532
論文内容の要約
貫通性心損傷(PCI)は極めて致死率が高い外傷であり、全体の生存率は19%に留まりますが、トラウマセンターに生きて到達した患者に限れば生存率は約40%に達します。受傷機転は主に銃創と刺創であり、銃創(生存率9%)は刺創(同33%)と比較して有意に予後が不良です。損傷部位としては、解剖学的な位置関係から右心室が最も多く、次いで左心室、右心房の順となっています。
患者の管理は血行動態に基づいて決定されます。安定している患者に対しては、胸部超音波検査(eFAST)が診断の第一選択となります。以前は心膜ウィンドウが標準的でしたが、現在では非侵襲的な超音波が推奨されています。一方、ショック状態で搬入された患者には即時の外科的介入が必要であり、心停止状態の患者には蘇生的な緊急室開胸術(EDT)が適応となります。特に病院到着直後の心停止や、短時間の心肺蘇生歴がある患者で良い治療結果が得られています。
手術アプローチの選択において、不安定な患者や心停止例では、迅速なアクセスと大動脈遮断が可能な左前側方開胸術が適しています。損傷が右側に及ぶ場合は、これを反対側へ延長する「クラムシェル開胸」が有効です。対して、安定した刺創患者などには、術後の合併症が少ない正中胸骨切開が選択されます。
出血の制御には、外科医の指による圧迫が最も効果的ですが、損傷が大きい場合はフォーリーカテーテルのバルブ留置やステープラーが一時的に用いられます。確定的な修復には、ポリプロピレン縫合糸を使用した外科的縫合が行われます。心房は連続縫合、心室は心筋の裂けを防ぐためにプレジェットを用いた結節縫合(U字縫合)が標準的です。
術後は、心中隔や弁の損傷を確認するために心エコー検査が不可欠です。また、解剖学的な修復と並行して、外傷性凝固障害を抑えるための止血蘇生(大量輸血プロトコル)や体温維持を行うことが、患者の生存率を向上させるために極めて重要です。